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オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)、2019年11月7日。 © 2019 AP Photo/Peter Dejong, File

更新:2月10日(月)、国際刑事裁判所(ICC)に対する制裁に関する2月6日の大統領令の付属書が公表された。付属書には、大統領令に基づき制裁される最初の人物、ICCのカリム・カーン検察官の名前が記されている。

(ワシントンDC)―国際刑事裁判所(ICC)に対する米国政府の制裁は、最悪の犯罪に対する国際的なアカウンタビリティ(真相究明と説明責任)の追及を損ない、世界中の被害者が法の下の正義を得る機会を奪うことになると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ドナルド・トランプ米国大統領は2025年2月6日、ICC職員とICCの業務を支援する人びとを対象に資産凍結と入国禁止を認める大統領令に署名した。

「トランプ大統領による国際刑事裁判所に関する大統領令は、法による正義を求める重大犯罪の被害者を犠牲にし、米国を事実上、戦争犯罪人の側に立たせるものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの国際司法局長リズ・エヴェンソンは述べた。「ICC加盟国は、何人も法を超越できないようにするとの設立目的に沿って、ICCを公に力強く支援すべきである。」

この大統領令はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がワシントンを訪問していた週に出されたもので、米国とイスラエルの政府関係者が国際刑事裁判所(ICC)で戦争犯罪と人道に対する罪の容疑を追及されることを防ごうというトランプ政権の意志がはっきり表れている。ICC裁判官らは2024年11月、ネタニヤフ首相とイスラエル前国防相ヨアブ・ガラントの逮捕状を発行していた。

ICC裁判官は、少なくとも2023年10月8日にガザ地区で始まった戦争犯罪と人道に対する罪についてネタニヤフ首相とガラント前国防相が責任を負うと信じるに足る合理的な根拠を見出した。具体的な罪状は文民に対する飢餓、民間人への意図的な攻撃、殺人、迫害などだ。

また、ハマスの軍事部門であるカッサム旅団の司令官ムハンマド・ディヤーブ・イブラーヒーム・アル=マスリー(通称ムハンマド・デイフ)への逮捕状も発行されている。カッサム旅団は1月30日、戦闘中にデイフが死亡したと発表した

国際刑事裁判所(ICC)は、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド、侵略の罪に問われた高官などを裁くために設立された常設の国際裁判所である。現在、国連加盟国の約3分の2にあたる125ヵ国が加盟している。

ICCは各国当局がまっとうな訴追をできないか、その意思がない場合に介入する最後の手段である。パレスチナに関する捜査のほか、ICCはスーダン・ダルフールバングラデシュ/ミャンマーウクライナベネズエラなど16の状況での残虐行為の容疑について捜査に着手している。

2月6日付の大統領令は、米国政府が反対する捜査に協力する非米国人への制裁を承認するものだ。この大統領令は「本命令の付属書に記載された人物」について資産凍結と入国禁止を規定する。ただし当該文書はまだ公開されていない。またこの命令では「保護された人物」の定義に該当する人物(米国市民、またはICCに加盟していないか、ICCの管轄権に同意していない米国の同盟国の市民または合法的居住者)に対する国際刑事裁判所(ICC)の捜査、逮捕、拘留、起訴に向けた動きに直接関与するか、これを支援する(……)外国人」への資産凍結と入国禁止も規定されている。

また、ICCによる捜査を支援する者にも制裁が適用される可能性がある一方で、入国禁止措置は制裁対象者の家族やそれ以外のICC職員にも及ぶ可能性がある。この大統領令では財務長官は、国務長官と協議した上で、60日以内に制裁対象となる追加の人物に関する報告書を大統領に提出しなければならない。

米国下院は2025年1月9日、ICCを対象とした制裁を認める法案を可決したが、1月28日には上院が同法案の成立に反対した。

2020年、第1期トランプ政権はファトゥ・ベンスダICC主任検察官(当時)と高官一人について、アフガニスタンの状況に関する捜査(米国民も捜査対象になる事案が含まれる可能性がある)開始の承認を求める決定をベンスダ氏が下したことを受けて両氏に制裁を課した。多くの政府がこの制裁を批判し、米連邦裁判所では2件訴訟が起こされた。バイデン政権は制裁を撤回した。現時点でICCに米国民に対する事案は係属していない。

米国の制裁は対象者に深刻な影響を及ぼす。対象者は米国内の資産にアクセスできなくなるほか、銀行や企業を含む「米国人」との商業・金融取引を拒否される。米国の制裁は、制裁を支持しなければ米国の銀行システムへのアクセスを失いかねない米国の管轄権外にある非米国銀行・企業も萎縮させる効果を持つ。米国人は、制裁に違反すると罰金や拘禁刑などの処罰の対象となる。

今回の大統領令は、ICCの重要な調査に関与するICCの裁判官や検察官、その他の職員を威嚇するだけでなく、より広範なICCとの協力関係そのものを萎縮させ、世界中の被害者の権利に影響を与えることをも意図していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

米国の制裁は国際正義を毀損しようという動きの一つだとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2024年5月1日、ネタニヤフ首相は各国政府に対してICCの逮捕状発行を止めるよう呼びかけた。イスラエル議会はイスラエル当局とICCとの「あらゆる公式協力の禁止」とICCを支援する個人の処罰とを行うことで、ICCの捜査からイスラエル当局者を保護する法案を目下審議中である。

2024年4月に複数の米上院議員がICC検察官への制裁をちらつかせた後、ICC検察局は検察局への「妨害や威嚇、不適切な影響」を意図したあらゆる試みをただちにやめるよう呼びかけた。ロシア政府当局は、ウクライナの被占領地域からロシアへの児童の不法な移送の容疑でロシア大統領ウラジーミル・プーチンに対してICCが逮捕状を発行したことへの報復措置として、ICCへの協力を犯罪とし、ICCの裁判官と検察官への逮捕状を発行した。

米国はICC加盟国ではないが、この制裁措置は米国会議員のあいだでここ数年高まりつつあったICCへの支持を覆すものとなった。2022年のロシアによるウクライナへの全面侵攻後、共和・民主両党の議員がロシア軍によるウクライナでの戦争犯罪容疑に対処するICCの取り組みを称賛するなかで、連邦議会は米国がICCの捜査に協力することを承認する法案を成立させた

米国の制裁の脅威が迫る中、ICC加盟国ICC締約国会議議長団欧州連合国連専門家市民社会組織は、ICCの業務を妨害する動きに反対する声明を発表している。

ICC加盟国は、ICC裁判所そのもの、職員、およびICCの協力者をあらゆる政治的干渉や圧力から守るという公約を再確認すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。また加盟国はブロックキング規則や類似措置を定めるなどしてICCの中核業務を制裁から守る措置を講じるべきだ。EUはブロックキング規則を速やかに適用し、米国の制裁がもたらしうる影響を緩和すべきである。

「米国の制裁はICCの業務に広範な影響を及ぼし、ICCが扱う状況すべてを妨害しかねない」と前出のエヴェンソン局長は述べた。「ICC加盟国には、法的責任を問われる対象が誰であっても、ICCが最悪の犯罪に対して法の裁きを行うことを保証することが求められている。」

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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